田中純著  青土社  2004年5月刊行(2600円)

『死者たちの都市へ』

都市表象分析による暴力批判論


 本書でこれから取り上げられるのは、現代における都市の冥界をめぐる政治の諸相である。
 第I部は二〇〇一年九月にアメリカ合衆国を襲ったテロを発端として、とくにニューヨーク世界貿易センター跡地の処遇を中心に論じている。マンハッタンに突然開いた死者たちの都市へ通じるこの門を、われわれはどんな護符によって守ればよいのか。失われた命をどのように慰霊することができるのか。そして、こうしたテロとそれに対する武力報復という未曾有の暴力それぞれの歴史的由来と相互関係が、戦場と化した都市の景観の背後に探られてゆく。
 第II部は現代都市における死の位相や政治的暴力の様態をより広範に扱っている。そこではまず、死を「生産」する都市アウシュヴィッツ絶滅収容所から届けられた写真のイメージという、死者たちの呼びかけに対する応答の倫理が問われ、医療技術をはじめとするテクノロジーの進展にともない、生と死の輪郭が不分明なものとなった時代におけるネクロポリス墓地空間の変容が考察される。つづいて、グローバル化する「帝国」に対抗する方法としての都市のモデルが、魑魅魍魎めいた都市イメージのなかに探し求められてゆく。最後に、都市全域に亡霊のように拡散して遍在する警察の暴力と、それを打ち破って国家権力を奪取しようとするクーデターの技術をめぐる分析が、この第II部を締めくくることになる。
 一連の考察を通して浮かび上がる、世紀の敷居をまたいだ時代の貌は暗く陰鬱である。本書ではそんな都市の死相を――ヒポクラテスのまなざしをもった歴史家として――読み解こうと努めた。死にかけている都市をさまようことは冥府巡りの旅に似ている。その旅の終わりを告げるエピローグでは、喪われた都市の「おもかげ」へのノスタルジアに、想起を通じた再生の希望を託すことになるだろう。(「プロローグ」より)

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