Blog (Before- & Afterimages): 2010年2月アーカイブ

2010年2月アーカイブ

楽しみな新刊

平野嘉彦さんの新著が出る。
平野嘉彦『死のミメーシス──ベンヤミンとゲオルゲ・クライス』(岩波書店)
ベンヤミンはともかく、ゲオルゲ・クライスについて平野さんの論が読めるのは嬉しい。

『顔』

監訳をした本が出ています。

アレクザンダー・スタージス『顔』(ナショナル・ギャラリー・ポケット・ガイド)田中純監訳、小澤京子訳、ありな書房、2010年(ISBN978-4-7566-1009-6 C0073)→amazon

いちおう監訳者ですが、実質的に小澤さんの仕事です。

半世紀

半世紀生きてしまった。

魔界

4月から魔界をたびたび訪れることになりそうだ。

それとは別に、引き受けないほうが無難だろうと思ったことは、案の定、最後になって進まなくなる。
かといって投げ出すわけにもゆかないので、自分で背負い込むしかない。
3月7日までにすべて片が付くのか?

だが、それ以前に月曜日までに終えなければならない案件あり。
英文200頁強のものをこの忙しい時期に送りつけておいて、20日あまりで処理しろと言うのも理不尽。
読むのが楽しい内容ならまだしも。
今月はまったく狙ったように、この種のことが集中している。

イメージの自然史

天使から貝殻まで。

アゴーンと劇場(Agon und Theater)

ベンヤミンのMentorだったFlorens Christian Rangの著作について、いくつか調査中のことあり。例えば、講談社文芸文庫版『ドイツ悲哀劇の根源』に邦訳が収められている「アゴーンと劇場」「劇場とアゴーン」に記載された古代悲劇論に関して、その着想源を知りたいのだが、ほとんど先行研究はない。あっても、ベンヤミンとの関係などが主で、参考にならない。何か見落としている?
このRangもそうだが、「消え失せる媒介者」と言うか、後世のパースペクティヴからでは見えなくなっている人物にばかり関心を覚える。

知りたい情報が膨大な無駄な情報のなかから見つけ出せるようになったことを進歩と見るべきか。それとも、むしろ本当に必要な情報へのアクセスは難しくなったのだろうか。
まあ単純に、島宇宙的に分けられた濃密な情報交換の場があれば解決することかもしれない。だから根本的にはそうした情報の共有度の問題なのだろう。

iPadの続き

なぜか iPad は気になる。「iPadはe-bookリーダーじゃない」という見方もあり、そして、Kindleとはターゲットが異なることもわかるが、Amazonがどんなe-bookを提供しようが、現在のKindleでそれを読もうとは思わない。
iPad に惹かれるのは、要するにその物体としての魅力のせいなのだろう。その意味では玩具であって、たわいもない。
対してKindleには玩具としての面白みがまったく欠けている。
つまり、わたしにとって書物は相変わらず「暗い玩具」ということなのだろう。

しかし、いわゆる電子出版そのものに期待がないかというと、そうでもない。
原稿を仕上げてから半年以上経たなければ編集が動き出さないとか、そもそも校正まで出たところで社長の一声によってシリーズものが打ち切りになるとか、出版社や編集者にはかなり恵まれている自分ですら、この業界の前近代性を感じることはある。贅沢を言っているのかもしれないが、もっと合理化して計画的にできる部分もあるだろうに。
とはいえ、校正もろくにされないまま世に送り出されるような粗製濫造よりははるかにましか。

今月は無謀にも予定してしまったイベントのほか、予想もしないノルマまで降りかかってきて悪戦苦闘。腰痛も疼き出し、これで乗り切れるのか、いささか不安。
世間では検察批判が一部で喧しいらしいが、権力者の擁護に躍起になっているように見えて異様だ。
せっかく政権を奪取したのなら、選挙に勝つためのノウハウしか取り柄がない古いタイプの政治家やその操り人形など早々に切り捨てて、新しい政党に生まれ変わればいいものを。数あわせのために弱小政党と連立を組んで政策の方針をねじ曲げるなど、あきれ果てた話である。

改革、とは、身近に聞く話でもある。かつて勤めていた組織で、機構改革を手がけた「カミソリ」と呼ばれる人物の改革案が、守旧勢力に潰されたことを思い出す。

つぶやき

一ヶ月以上もブログを書いていなかったことに気付く。

理由は簡単で、この時期特有の諸事万端のほか、今年は例年になく雑事ばかりだからだけれど、まず第一には、寸暇さえあれば書き下ろしの原稿に手を加えていたからだった。
何よりもそれを書くことのほうに充実感があるので、ただでさえ雑然たる時期に細切れの雑感を綴る気にはならなかったのだ。

細切れの雑感とは、某政党の幹事長を検察が起訴しないのはおかしいだろうとか、同じ某政党がこの幹事長をめぐる疑惑の調査に対して示したヒステリックな反応への不快感とか、一国の首相なのに腹話術の人形みたいで言葉の軽い男に対する嫌悪感とか、政治がこれだけの異常事態なのに根本的に緊張感が欠けている現状の無気味さとか、暴行を起こした横綱とその師匠がやりたい放題の挙げ句に招いた末路の後味の悪さとか、Kindleはちっともほしいと思わなかったけれど、iPadでなら電子ブックも悪くはなさそうだとか、もっと身近なことでは、大学教員の官僚化ないしモーレツ・サラリーマン化でなければアクティヴィスト化とか儀礼ばかりの国際化とか無内容な会議の長さとか、あれとか、これとか・・・・・・
──しかし、そんな月並みなことを「つぶやいて」何になるのか。

ついでに書いておくと、「つぶやく」一方できちんと仕事をしている人が大半だろうと思うが、「140字書いている暇があったら、本分に即して、ちゃんと論文を書いたらどうなんだ(指導教員に挨拶くらいしろよ)」とつぶやき返したいつぶやきもある。

「つぶやき」もそうなのだけれど、電子メールから何から、インターネットのテクノロジーはひたすら人生を細切れで雑然としたものにするためにだけあるような気がしている。もとより、リサーチの手段としては多大な恩恵を被ってはいるが、それは明確な探索目標があるからで、それなしの即時反射を繰り返していると、その反射そのものが自己目的化しかねない恐ろしさを感じる。
「雑誌」という形態を去年は反省してみた。その雑然さと構築性とのバランスを、メディアが取り戻すことはできるのだろうか。

以上が、一月分のつぶやきのまとめ。
もっと本質的なことは原稿に書いている。3月からは印刷物の形で、少しずつ読んでいただく機会もあるだろう。
春浅いイタリアでの調査を終えたら、終着点も見えるだろうか。

『みすず』読書アンケート特集

何人かの方に拙著『政治の美学』を挙げていただきました。ありがとうございました。

わたしの回答は次の通りです。

1の棚 食と殺生をめぐる人間社会の欺瞞を衝く服部文祥『狩猟サバイバル』(みすず書房、二〇〇九年)の、「猟師が自分の殺生を精算する機会があるとしたら、獲物を自分で解体するという作業においてだろう」という指摘に眼を開かされた。カルロ・ギンズブルグ『闇の歴史』(せりか書房、一九九二年)で論じられる、骨を集め、死んだ動物の皮で包むことを基礎とした、ユーラシアの再生儀礼を連想する。さらに、三中信宏『分類思考の世界』(講談社現代新書、二〇〇九年)とクロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』(みすず書房、一九七六年)を合わせ読み、分類思考の要である「種」という「業」を積極的に愛する思考のかたちについて考える。

2の棚 前田英樹『独学の精神』(ちくま新書、二〇〇九年)も、「身ひとつで生きる自分が学ぶ」独学を論じて、最終的には「皆で大いに旨い米を食べよう」という食の問題にいたり着く。大学は所詮組織に過ぎない。事業仕分けをはじめとして、そのことを今年は痛感した。孤独な学問の夢を甦らせた書物として、互盛央『フェルディナン・ド・ソシュール』(作品社、二〇〇九年)という大作が出た。「一」なる国語ではなく、〈一〉なる言語のもとでの「民族不在のヨーロッパ」という「一般言語学」のヴィジョンに、日本語で書くことの可能性を読む。秋にはソシュールと同じスイス出身の作家ジルベール・クラヴェルについて、バーゼルでアーカイヴの資料を調査した。ヴァールブルク、クラヴェル、そしてクラヴェルが晩年に影響を受けたバッハオーフェンにいたるまで、すべて在野の学者だった──「野戦攻城」という世代感覚を語った橋川文三もまた、自分を独学者と規定している。

3の棚 『白髪小僧』をきっかけにひとしきり夢野久作に嵌る。この文体と想像力はどこから来るのか。その根のひとつが謡曲にあることは確かだろう。渡邊守章『快楽と欲望』(新書館、二〇〇九年)と『越境する伝統』(ダイヤモンド社、二〇〇九年)という二冊の評論集から伝わってくるのも、身体を通過した日本語のリズムである。

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田中 純
東京大学大学院総合文化研究科・教授
TANAKA Jun, Ph.D.
Professor
The University of Tokyo

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