あれから二年。僕はフィレンツェのキリスト教ホスピスで暮らしていた。この家を人がどう呼んでいようとも、そこでの滞在はわびしいものだった。清潔だが、殺風景な部屋で、数少ない客同士が交際し、彼らはこの家の性質を自分たちのわびしい表情に反映させていた。ここには色彩がなく、喜びもなく、ここに暮らしているのは、ただ安いという理由だけからだった。
僕は別の理由もあってここにいた。健康状態のせいで、病気になった期間中も世話が受けられる住まいを探さなければならなかったのだ。職のない女性教師や女性の家庭教師が宿を求めたこのホスピスに、ある公益団体が病院を設けていたのである。だから、病気になったと感じたら、赤十字の看護婦たちが働いている、半地下の部屋が割り当てられるのだった。僕も一度彼女らの世話になったことがある。当時僕はチフスのような腸の痛みに苦しんでおり、カプリ島から帰ってきたところだった。
しかし、僕が書き留めておきたいことは、ホスピスやその設備とはほとんど関係がない。今それを思い出しているのは、過去数週間のうちにさらに展開を見せた、ある体験の背景になっているという理由のみによる。
フィレンツェでは冷たく湿った秋の天候が続いていた。僕は美術館を訪ね、たいてい晩になってようやくホスピスへ帰ってきた。このときそこで暮らしていた客は数人しかおらず、小さなラウンジで紅茶を飲むたび、使用人の誰も灯りをもって来ず、夕闇に包まれてしまうこともしばしばだった。そんなある夕暮れ、僕は一人の少女と向かい合っていた。その異様な外見によって、彼女は僕の注意を完全に引きつけた。
彼女は僕の前の黒いクッションの付いた安楽椅子に、黒一色に身を包んで座り、一冊の本を読み、凝視していた。その本は白い光のように薄闇を通して輝いていた。しばらくして、彼女が半ば放心状態でその本を閉じたとき、小さな両手がその位置に移った。窓の外では街灯に火が点された。窓ガラスを通して、細い光の帯がほのかに輝き、少女の顔を緑がかった白色に照らした。ぎらぎらした光が彼女を不快にさせ、薄暗がりのなかに頭部を沈めたので、光は彼女の両手だけに貼りついたようにとどまった。
この姿勢で彼女は動きを止めた。黒い繊細な巻き毛は果てなく拡がる闇に溶け込んでいた。僕は彼女の両手だけを見ていた。それは切り取られた生命の断片のように、僕の秘かな凝視に捧げられていた。部屋には死の静寂が満ちた。外では市電が金属音を立て、御者が叫び声を上げて馬をせき立てていた。木靴がカタカタと鳴り、重い扉がバタンと閉まった。
僕の前の小さな白い両手は神経質に震え、時折、それが置かれている闇の平面を丸めるように動いた。その繊細な指は痙攣し、伸ばされ、僕は指の爪のかすかなかき傷に気づいた。そして再びこの手は静かにふところに横たわり、そのうえに落ちる弱々しい光に照らされた。それは死者の手のように見えた。
そんなふうに彼女は暗闇と僕とにまったく委ねられていた。けれど、僕には彼女の内面で何が進行しているのかがわからなかった。僕らは互いに相手を認識していたわけではなかった。ひょっとしたら、彼女はそこに誰かがいることに、一度も気づかなかったのかもしれない。彼女は夢を見ていたのだろうか。
僕は部屋を立ち去った。彼女は身じろぎもしなかった。
僕は別の理由もあってここにいた。健康状態のせいで、病気になった期間中も世話が受けられる住まいを探さなければならなかったのだ。職のない女性教師や女性の家庭教師が宿を求めたこのホスピスに、ある公益団体が病院を設けていたのである。だから、病気になったと感じたら、赤十字の看護婦たちが働いている、半地下の部屋が割り当てられるのだった。僕も一度彼女らの世話になったことがある。当時僕はチフスのような腸の痛みに苦しんでおり、カプリ島から帰ってきたところだった。
しかし、僕が書き留めておきたいことは、ホスピスやその設備とはほとんど関係がない。今それを思い出しているのは、過去数週間のうちにさらに展開を見せた、ある体験の背景になっているという理由のみによる。
フィレンツェでは冷たく湿った秋の天候が続いていた。僕は美術館を訪ね、たいてい晩になってようやくホスピスへ帰ってきた。このときそこで暮らしていた客は数人しかおらず、小さなラウンジで紅茶を飲むたび、使用人の誰も灯りをもって来ず、夕闇に包まれてしまうこともしばしばだった。そんなある夕暮れ、僕は一人の少女と向かい合っていた。その異様な外見によって、彼女は僕の注意を完全に引きつけた。
彼女は僕の前の黒いクッションの付いた安楽椅子に、黒一色に身を包んで座り、一冊の本を読み、凝視していた。その本は白い光のように薄闇を通して輝いていた。しばらくして、彼女が半ば放心状態でその本を閉じたとき、小さな両手がその位置に移った。窓の外では街灯に火が点された。窓ガラスを通して、細い光の帯がほのかに輝き、少女の顔を緑がかった白色に照らした。ぎらぎらした光が彼女を不快にさせ、薄暗がりのなかに頭部を沈めたので、光は彼女の両手だけに貼りついたようにとどまった。
この姿勢で彼女は動きを止めた。黒い繊細な巻き毛は果てなく拡がる闇に溶け込んでいた。僕は彼女の両手だけを見ていた。それは切り取られた生命の断片のように、僕の秘かな凝視に捧げられていた。部屋には死の静寂が満ちた。外では市電が金属音を立て、御者が叫び声を上げて馬をせき立てていた。木靴がカタカタと鳴り、重い扉がバタンと閉まった。
僕の前の小さな白い両手は神経質に震え、時折、それが置かれている闇の平面を丸めるように動いた。その繊細な指は痙攣し、伸ばされ、僕は指の爪のかすかなかき傷に気づいた。そして再びこの手は静かにふところに横たわり、そのうえに落ちる弱々しい光に照らされた。それは死者の手のように見えた。
そんなふうに彼女は暗闇と僕とにまったく委ねられていた。けれど、僕には彼女の内面で何が進行しているのかがわからなかった。僕らは互いに相手を認識していたわけではなかった。ひょっとしたら、彼女はそこに誰かがいることに、一度も気づかなかったのかもしれない。彼女は夢を見ていたのだろうか。
僕は部屋を立ち去った。彼女は身じろぎもしなかった。









