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自戒(緊急時の意思決定)

今回の大震災後、自分が関わる複数の催しがあり、それらを中止するか否かの決定にあたって、リスク認知の齟齬に逢着することが繰り返された。非常にもやもやする思いが残ったので、ここに戒めとして心覚えを記しておきたい。
1.震災後、たとえ直接の被災地ではなくとも、今回の東京圏のようにある程度影響を受け、危険が残る地域の場合、主催者は催しの開催可能性自体をまず再検討すべきだろう。実施関係者の安否確認とともに、個々人の参加意志確認を行ない、この点での意思統一を図るべきだ。

2.開催可能性が残っている場合には、会場の安全性や交通機関などのアクセスの確実性を十分確認しなければならない。震災直後には、不特定多数が集まる公開の催しは原則として中止ないし延期すべきだろう。限定された特定の参加者だけに限って開催する場合には、上記のような参加意志確認を早急に行ない、at your own riskでの実施とする。

3.この際、主催者は概して催しを強行したがる傾向にあるので、その傾向を自覚し、参加者の意志を優先して万事を決定すべきだろう。関係者間でリスク認知が一致しているとは限らないからである。大学における学生参加の催しの場合にはとくにこの点に留意し、主催者がリスクをどの程度に見積もって、なぜ催しを実施しようとしているのかを正確に説明したうえで、学生が自分の意志で参加・不参加を決定できるように十分配慮しなければならない(教員との関係が暗黙のうちに学生に参加を強いていることもありうる)。未成年者の場合には保護者の同意を確実に取ること。

4.ともかく関係者間での連絡を早めに取り、主催者としての統一的な意思決定を素早く行なう必要がある。中止ないし延期すべき公開の催しについては、迅速にその旨を公に通知すべきだ。決定を一人が抱え込んで遅らせても何のプラスにもならない。

5.外国から講演者などを招聘している場合、催しを強行することがホスピタリティではない(むしろその逆)。震災後の状況を説明し、催しに参加してもらえるかどうかの意志をまず再確認すべきだろう。今回のような大震災で余震や原発事故のような危険性がある状況下では、即時帰国の可能性もある。

6.こうした安全の確保が結果的に杞憂に終わったとしても、何も起こらなかったことこそを成果と見なすべきである。催しの意義はその強行を正当化しない。客観的な「安全」は参加者個々人の「安心」を意味しない。そのような状態で催しを強行すること自体がリスクを高める。不安は確固とした心理的リアリティであって、短時間の議論や説得で取り除けるものではない。開催責任者が催しの安全性に最大限の注意を払うことは当然であるが、さらにリスク認知の違いを前提として、「安心」が確保できていない参加者による催しの実施は避けるべきだ。

この異常な事態下で短時間のうちに決定を迫られたことにより、緊急時における人間の行動パターンがあぶり出されたように思った。最終的な意思決定が遅れて敗走したり、「行け行けどんどん」の隊長のもとで戦場に突進したりといった、軍隊(下士官指揮の分隊くらいか)を連想した次第である。

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田中 純
東京大学大学院総合文化研究科・教授
TANAKA Jun, Ph.D.
Professor
The University of Tokyo

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