Blog (Before- & Afterimages): 2014年12月アーカイブ

2014年12月アーカイブ

読売新聞に寄稿した『photographers' gallery press no. 12 特集:爆心地の写真 1945-1952』の書評本文です。

 本書は東京・新宿にある写真家たちによる自主運営ギャラリーの機関誌最新号である。「爆心地」とは広島を指す。この特集では、原爆の投下と敗戦から講和条約発効(1952年)による主権回復までの歳月に広島で撮影された写真が、調査取材にもとづく座談会や論文によって詳細に検証され、多角的に考察されている。
 三種類の写真資料がその柱をなす。第一は被爆当日の惨状を唯一記録した、中国新聞社のカメラマン・松重美人(よしと)撮影による五枚の写真である。第二は1949年に広島県観光協会が出版した写真集『LIVING HIROSHIMA』、第三は同年刊行の英文グラフ誌『HIROSHIMA』だ。
 『LIVING HIROSHIMA』が占領下の検閲との緊張関係の中で出された最初の原爆記録写真集であると同時に、海外向け観光案内でもあったという二面性、あるいは、『HIROSHIMA』に収められている、原爆投下前後の広島を聞き取りをもとに描いた吉田初三郎による連作鳥瞰図のピンク色のキノコ雲が、いかに実際の光景に即した描写であったかなど、いずれも私には驚きとともに知る事柄だった。本書には『HIROSHIMA』の全ページが転載され、日本語訳が付けられており、吉田の連作絵画をカラーで眼にすることができる。
 だが、何よりも衝撃的なのはやはり、五枚の「爆心地の写真」であろう。みずからも被爆した撮影者・松重は、何が起こったのかもわからぬままに、瀕死の生者と死者たちが「牛肉をならべたようにずらり横たわり」とやがて回想されることになる、凄惨な状況にあった爆心地2・2キロの御幸橋の上で、長い逡巡の末にようやく最初の写真を撮影している。彼はそこに撮された横たわる一体の亡骸を、あまりのむごさゆえに、のちにネガから掻き消そうとしたともいう。
 撮影者にそんな行為すら強いかねない出来事の記憶と写真記録の深い闇に絶句しそうになりながら、それでもこれらの不鮮明な写真を執拗に見直し、被写体の人々とその撮影者たちの経験を想像してみなければならない──そうした強い思いが本書全体の底に流れている。座談会では、アウシュヴィッツ強制収容所で屍体焼却などを担当させられたユダヤ人特別部隊員が隠し撮りした四枚の写真と松重の写真が比較されている。これらはともに、撮影者自身もまた生死の危機にある、極限状況下における記録だからこそ、写真というメディア、撮影行為、そして写真を見るわれわれの経験の本質がそこで鋭く問われるのだ。
 原爆投下から70年の節目を迎える今、繰り返し凝視すべき光景がここにある。原爆写真のみならず、写真の見方そのものを変える力をもった一冊である。


「爆心地の写真 1945-1952」

『photographers' gallery press no. 12 特集:爆心地の写真 1945-1952』について、読売新聞に寄稿しました(2014年12月25日付、読売新聞朝刊35面掲載)。

当面のリンク:

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牛腸茂雄について10年前に書いた文章の再録です。書誌情報は次の通り。
田中純「日常の周縁に揺曳するもの----写真集『見慣れた街の中で』をめぐって」、『未来』No.457、未來社、2004年10月、4〜8頁。

今回『UP』に書いたベンヤミンのカラー写真をめぐる考察と響き合うものがあるため、ここに掲げます。

「脱構築の生き証人のような人」と言われるロドルフ・ガシェさんの講演や『思想』のデリダ特集と、デリダづいていた週の印象記。

キンポウゲを摘むベンヤミン

『UP』12月号に寄稿しました。連載「イメージの記憶」の第38回です。
書誌情報は 田中純「キンポウゲを摘むベンヤミン──ジゼル・フロイントの一枚の写真について」、『UP』506号(2014年12月号)、東京大学出版会、2014年、50〜57頁。 

なお、誌面に掲載した図版(とくに図1と図4のカラー図版)については、次のページを参照してください。
アクセス制限の解除方法
名前:撮影した写真家の姓(すべて小文字で)
パスワード:図1の撮影場所(すべて小文字で)

追記:
引用したボードレールの「殉教の女」において「金鳳花のように」の原文はcomme une renoncule。renonculeはキンポウゲ科(ないしウマノアシガタ科)の総称で、ベンヤミンが手にもつ一重の花も確かに含むのだが、「殉教の女」では八重咲きの球体に近い花のほうを指している可能性が高いかもしれない。和名においても、厳密に言えば「キンポウゲ(金鳳花)」は、一重の花まで意味する「ウマノアシガタ」のうちの八重咲きのものの名とされる。

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田中 純
東京大学大学院総合文化研究科・教授
TANAKA Jun, Ph.D.
Professor
The University of Tokyo

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