改訂(コメント追加):『過去に触れる』関連書籍リスト - Blog (Before- & Afterimages)

改訂(コメント追加):『過去に触れる』関連書籍リスト

コメントを付けました。日本語の書籍で比較的容易に入手できるもの(一部絶版あり)に限定したリストです。

1. 堀田善衞『方丈記私記』,ちくま文庫,1988.
大空襲により焼け野原と化した東京に方丈記の世界が重ね合わせられる。東日本大震災直後に改めて手に取り、「過去に触れる」歴史経験を叙述する「私記」という方法を学んだ書。
2. 田中純『アビ・ヴァールブルク 記憶の迷宮』,青土社,2001;新装版,2011.
「イメージの歴史家」ヴァールブルクはみずからを、過去からの波動を感知する「地震計」に譬えた。歴史経験のひとつの極限的なかたちがそこにある。一時は狂気にまでいたったその「地震計」の一生をたどった評伝。
3. 田中純『冥府の建築家----ジルベール・クラヴェル伝』,みすず書房,2012.
南イタリア、アマルフィ海岸のポジターノに異様な巌窟住居を築き上げたせむしの作家クラヴェルをめぐる世界初の評伝。謎の恋人「アーシア」に宛てた手紙や日記から構成した「アーシア断章」を含む。『過去に触れる』では、アーシアが誰であったのかを突き止め、その肖像写真を眼にするにいたるまでの探索過程を描いた。
4. 中島岳志編『橋川文三セレクション』,岩波書店,2011.
重要な論考「歴史意識の問題」のほか、「乃木伝説の思想」などを所収。とくに「太宰治の顔」をはじめとする回想には、橋川による歴史経験の「質」が垣間見える。
5. 宮嶋繁明『橋川文三 日本浪曼派の精神』,弦書房,2014.
『日本浪曼派批判序説』刊行(1960年)にいたるまでの若き橋川の精神形成を、貴重な資料にもとづき、克明に追跡した評伝。この書物でも触れられている弟・敏男(筆名・荒川厳夫)の詩集『百舌』については、『過去に触れる』の註でその詩を紹介している。
6. ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお----アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真』,橋本一径訳,平凡社,2006.
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所でユダヤ人特別労務班の一員によって撮影された写真をめぐる詳細な分析と、映画『ショア』の監督クロード・ランズマンらとの論争の書。『過去に触れる』では、この書物に寄せた解説を発展させ、論争をめぐる蓮實重彦の指摘に応える補論を付した。
7. 『photographers' gallery press』no.12「爆心地の写真 1945-1952」,photographers' gallery,2014.
広島への原爆投下当日に松重美人が撮影した写真をめぐる座談会のほか、爆心地の視覚表象に関する数々の討議・論考によって構成された特集号。とりわけ、倉石信乃「不鮮明について」は創見に満ちている。
8. W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』(改訳),鈴木仁子訳,白水社,2012.
『過去に触れる』のゼーバルト論が考察の中心とした作品。その表紙を飾るお小姓姿の少年の写真をはじめとする図版やテクストの細部からは、思いもかけぬ歴史的背景や文脈が見出されることになった。作家はそれを「因果律によっては究明できない連関」あるいは「漂流に似た何か」と呼んでいる。
9. W・G・ゼーバルト『カンポ・サント』,鈴木仁子訳,白水社,2011.
ゼーバルトの文学観を明かすきわめて重要な講演「復元のこころみ」を所収する散文集。この「復元」とは彼にとって、事実の記録や学問の彼方で、文学のみが果たすことのできる営みだった。
10. ロラン・バルト『明るい部屋----写真についての覚え書き』,花輪光訳,みすず書房,1985.
言わずとしれた写真論の古典にして、歴史経験のサスペンスに満ちたテクスト。この書物の核心にあって不在のイメージである幼い母の「温室の写真」を、バルトはじつは誰にでも見える──ただし、読み取れぬ──かたちで、アナモルフォーズとして提示していた。
11. 三浦哲哉『サスペンス映画史』,みすず書房,2012. 
サスペンス映画のなかでも劃期をなす作品・監督を取り上げることにより、理念としての「サスペンス」をくっきりと浮かび上がらせた書物。とくにそのクリント・イーストウッド論からは、歴史経験のサスペンスを論じるうえで多大な刺激を得た。
12. 塚本昌則編『写真と文学----何がイメージの価値を決めるのか』,平凡社,2013.
フォトテクストをひとつの典型とする写真(イメージ)と文学(文字テクスト)との関係をめぐる論文集。『アウステルリッツ』にも触れている塚本「時のゆがみ」と、現代フランスの小説が写真を使用「しない」点に注目する野崎歓「写真への抵抗」がとくに示唆的である。
13. ローラン・ビネ『HHhH----プラハ,1942年』,高橋啓訳,東京創元社,2013.
プラハにおけるナチ高官ハイドリヒの暗殺事件をめぐる小説。その描写法には「サスペンスとしての歴史叙述」の技法を読み取ることができる。
14. ソール・フリードランダー編『アウシュヴィッツと表象の限界』,上村忠男・小沢弘明・岩崎稔訳,未來社,1994.
どのようにすればホロコーストを適切に叙述しうるかをめぐるヘイドン・ホワイトの論文「歴史のプロット化と真実の問題」、および、カルロ・ギンズブルグによるホワイト批判の論考を所収。しかし、もっとも印象に残るのは、編者がこの論文集の序文末尾に引用している或る小さな事件の記録である。
15. 三部けい『僕だけがいない街』1〜8巻,角川書店,2013-2016(8巻は近刊).
アニメ化、映画化もされたこのサスペンス漫画の主人公は、作中で「リバイバル」と呼ばれる超能力をもち、過去に遡って、出来事を変えることができる。連続児童殺害事件の被害者となった小学生時代の級友たちをこの能力によって救おうとする主人公の行為は、一種の「歴史の逆撫で」(ベンヤミン)にほかならない。
16. パトリック・モディアノ『1941年。パリの尋ね人』,白井成雄訳,作品社,1998.
ノーベル文学賞受賞作家モディアノは古い新聞に尋ね人広告を見つけ、その広告のユダヤ人少女ドラ・ブリュデールと彼女の一家について長期間の調査に携わる。本書はその探索の記録であり、そこには作家自身の自伝的回想も交えられている。ゼーバルトの言う「復元」としての文学の優れた達成。
17. 畠山直哉『気仙川』,河出書房新社,2012.
東日本大震災による津波で大きな被害を受けた故郷の、震災前と震災後の写真からなる写真集。母の安否をなかなか確認できぬまま現地へと向かう過程を叙述した、「気仙川へ」という著者のテクストのうちには、危機的状況下における切迫した時間の経験が凝縮されている。
18. ヴァルター・ベンヤミン『図説  写真小史』,久保哲司編訳,ちくま学芸文庫,1998.
写真というメディアはベンヤミンにとって、歴史認識の構造を探る実験装置にも似たものだった。本書に収められた写真論は、彼の歴史哲学における「歴史の逆撫で」に対応する「写真の逆撫で」──過去の光景のなかに未決定の未来を見ること──のために書かれている。
19. ヴァルター・ベンヤミン『[新訳・評注]歴史の概念について』,鹿島徹訳・評注,未來社,2015.
ベンヤミンの遺稿「歴史の概念について」は周到きわまりないこの新訳と評注によって姿を一新した。それにより、ベンヤミンが当時抱いていた危機感もまた、間近に迫るのを感じる。『過去に触れる』結論の十のテーゼは、言うまでもなく、このテクストへのささやかな応答である。
20. 平野嘉彦『死のミメーシス----ベンヤミンとゲオルゲ・クライス』,岩波書店,2010.
若き日のベンヤミンとその友人たちは詩人シュテファン・ゲオルゲの熱狂的なファンだった。しかし、その「世代」は「あらかじめ死を定められていた」と彼はのちに書くことになる。ベンヤミンとゲオルゲおよびその周辺の崇拝者たちとの関係を論じた本書は、そんな詩の経験の実相と帰結を教えてくれる。
21. マイケル・タウシグ『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』,金子遊・井上里・水野友美子訳,水声社,2016.
タウシグが文化人類学に導入しようとしているのは、いわば「私記」の手法と言えるのではないだろうか。それはときにフィクションにも近づく。書名にもなっているスペイン国境ポルボウにあるベンヤミンの墓標の訪問記は、過去と現在、彼方と此方を貫くように語る、そうした話法の精華である。
22. 多木浩二『映像の歴史哲学』,今福龍太編,みすず書房,2013.
この思想家が晩年に行なった講義の記録であり、珍しく自伝的な事柄も多く語られていて、その思想の背後に潜む生理をうかがわせている。序文にあたる「歴史の天使」の断章には、写真と歴史をめぐる著者の深い思索が詩的散文として結晶化している。

番外
磯崎新監修・田中純編『磯崎新の革命遊戯』,TOTO出版,1996.
田中純『都市表象分析I』,INAX出版,2000.
田中純『死者たちの都市へ』,青土社,2004.
田中純『都市の詩学----場所の記憶と徴候』,東京大学出版会,2007.
田中純『政治の美学----権力と表象』,東京大学出版会,2008.
田中純『イメージの自然史----天使から貝殻まで』,羽鳥書店,2010.
田中純,伊藤博明,加藤哲弘,アビ・ヴァールブルク『ムネモシュネ・アトラス』,ありな書房,2012. 

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田中 純
東京大学大学院総合文化研究科・教授
TANAKA Jun, Ph.D.
Professor
The University of Tokyo

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