「町へ行けば革命だ」──「桜三月散歩道」別ヴァージョン - Blog (Before- & Afterimages)

「町へ行けば革命だ」──「桜三月散歩道」別ヴァージョン

井上陽水の曲「桜三月散歩道」には、赤塚不二夫責任編集の雑誌『まんがNo.1』第2巻3号(1973年3月1日刊行)附録のソノシートに収録されたヴァージョンがある。

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これは作詞者である長谷邦夫の詩に忠実に即した先行するヴァージョンで、アルバム『氷の世界』に収められている、よく知られた曲の詞は、陽水によって歌詞や語りの内容が変えられている。『氷の世界』では陽水自身による語りの部分が、『まんがNo.1』ではレコーディング・エンジニアの大野進によって語られているという違いもある。
たとえば、『氷の世界』ヴァージョンの語りでは、「江戸川」や「帝釈天」といった固有名詞が削られており、それによって、現実に縛られないイメージの自由な連想が許されている。さらに、三番の歌詞にあった「町へ行けば革命だ」というフレーズが歌全体から削除されている点も注目されるだろう。これらの改変を通じて、この曲は『氷の世界』というアルバムの世界観により馴染んだものになっている。
しかし、楽曲としての一体性や完成度の高さとは別に、『まんがNo.1』ヴァージョンにはそれ特有の魅力がある。固有名詞を排除して、平易だが象徴性の高い言葉によってイメージを喚起する陽水の詞の世界に近づけられた『氷の世界』版とは異なり、『まんがNo.1』版にはその完結性を崩す複数の異質な要素のせめぎ合いが感じられるからこそ、陽水の曲としては貴重に思われるのである。
とくに魅力的なのは語りの声だ。『氷の世界』の陽水ヴァージョンよりも低く男性的でかすれたような大野進の声は、どうしても技巧的に響いてしまう陽水の語りよりも、詞に込められたノスタルジーには親和的だったように思える。それとは逆に、「町へ行けば革命だ」という言葉が陽水によって歌われることの違和感もまた拭いがたいのではあるが。

以下に、『まんがNo.1』ヴァージョンの詞全文を掲げる。
桜三月散歩道(『まんがNo.1』ヴァージョン)
作詞:長谷邦夫
作曲・歌:井上陽水
語り:大野進

ねえ 君、二人でどこへ行こうと勝手なんだが
川のある土地へ行きたいと思っていたのさ
町へ行けば花がない
町へ行けば花がない
今は君だけ見つめて歩こう
だって人が狂い始めるのは
だって狂った桜が散るのは三月

(語り)
 夏の日の夕方 水泳から帰った僕たちは
 みんな真っ白なシャツを着ると
 色の剥げた貨物船のような倉庫のある
 細い道に集まるんだ
 僕らがキャッチボールを始めると
 道路は瞳の中の涙のように急に広がって
 白シャツも影の中に沈んでしまい
 白く光るのは たった一つの健康ボールだけになっちゃうんだな

ねえ 君、二人でどこへ行こうと勝手なんだが
川のある土地へ行きたいと思っていたのさ
町へ行けば人が死ぬ
町へ行けば人が死ぬ
今は君だけ追いかけて走ろう
だって僕が狂い始めるのは
だって狂った恋が咲くのは三月

(語り)
 秋 やっぱり夕方近くになると
 僕たち子供は家の窓を開け
 涼しくなった空を見上げてから
 江戸川の堤に駆け登るんだ
 みんなで影を連れてね
 帝釈天の向こうの夕日が
 太い煙突に吸い込まれるまで
 影踏みをして遊ぶんだ
 影を踏もうとすると
 影は驚いた魚のように逃げたっけ

ねえ 君、二人でどこへ行こうと勝手なんだが
川のある土地へ行きたいと思っていたのさ
町へ行けば革命だ
町へ行けば革命だ
今は君だけ想って風になろう
だって君が花びらになるのは
だって狂った風が吹くのは三月 

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田中 純
東京大学大学院総合文化研究科・教授
TANAKA Jun, Ph.D.
Professor
The University of Tokyo

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